iDeCoに加入すべきか否かの判断基準【応用編】-特別法人税や出口戦略-

iDeCo

前回、iDeCo(正式名称:個人型確定拠出年金、以下省略)に加入すべきか否かの判断基準の基礎をまとめました。

今回は基本的な部分を深掘りした応用編としてまとめたいと思います。

iDeCoは非常に複雑な制度になっており、誰もが得をするとは限りません。また、一度加入してしまうと60歳まで抜けることができないことから、得になるという確信が持てない限り、安易に加入すべきではありません。

iDeCoのメリット

基礎編で挙げたメリット中から要となる部分を深掘りします。

1.掛金が全額所得控除

課税所得金額ごとの所得税率と控除額一覧表が下記になります。

出典:国税庁│所得税の税率

所得税額は表の通りですが、住民税に控除額はないため課税退職所得金額に一律で税率10%を掛けた金額となります。

つまり、納税者であれば掛金に対して最低でも15.315%の所得控除を受けられます。

高所得者でなくとも、所得控除を受けられさえすれば節税率が大きいことがわかると思います。

この金額がゼロリスクでの確実なリターンになります。

2.運用益が非課税、退職所得扱い

掛金が全額所得控除であり、運用益が非課税であることから、退職所得控除枠内に収めることができれば完全に無税で受け取れることになります。

3.退職所得の課税所得/課税退職所得金額

仮に退職所得控除枠を超えてしまっても、超えた分を1/2した金額に対して所得税の超過累進税率がかけられます。

式で表すと、課税退職所得金額は、(退職所得-退職所得控除)×1/2で求めます。

出典:国税庁│退職金と税

所得税額は表の通りですが、住民税に控除額はないため課税退職所得金額に一律で税率10%を掛けた金額となります。

4.メリットまとめ

上記の要点を満たせば、所得控除を受けられない人を除けば、手数料は無視できるくらい小さくなると考えても差し支えありません。

所得控除を受けられない人とは、所得税と住民税が非課税の人を指します。単身者の場合の年収だと、所得税は103万円以下、住民税は市区町村により93〜100万円以下の人が該当します。

根拠となる計算例を下記に示しますが、結論だけわかればよいという方は飛ばしてください。

非課税になるかどうか付近の年収の場合は、非課税世帯となる93~100万円以下に抑えた方がメリットは大きいと思いますが、手数料負けしない年収例として示します。

給与所得者、単身者、基礎控除以外の所得控除なし、年収110万円とします。

この場合、税金額は下記になります。

 所得税:課税所得=収入金額1,100,000-給与所得控除550,000-基礎控除480,000=70,000

     所得税額=70,000×5%=3,500円

 住民税:課税所得=収入金額1,100,000-給与所得控除550,000-基礎控除430,000=120,000円

     所得割=課税所得120,000×都道府県民税率4%-調整控除1,000+課税所得70,000×市区町村民税6%-調整控除1,500=9,500円

      均等割=都道府県民税1,000+市区町村民税3,000=4,000円

 合計税額:17,000円

下表は2017年のデータのようですが、わかりやすいので参考までに引用します。

    

    出典:所得税・住民税簡易計算機│地域別の住民税均等割・所得割一覧

なお、リンク先は標準税率に2014年度から2023年度までの復興特別税+500円ずつが含まれているようです。

上記の条件でiDeCoに加入し、毎月の掛金は最低額である5,000円とした場合、小規模企業共済等掛金控除により、税額は掛金年額60,000×税率15%=9,000円安くなることから、合計税額=17,000-9,000=8,000円になります。

節税額は、月換算すると750円となります。

次に、毎月かかる固定の手数料は、拠出額にかかわらず加入者(掛金拠出者)口座管理手数料が収納手数料:105円+事務委託手数料:66円+運営管理機関手数料:0〜440円=171〜611円と、最安値の金融機関でも171円かかり、これは掛金の3.42%にも及びます。

しかし、年収110万円で最低税率の所得税:5%+住民税:10%=合計:15%でも月換算で750円の節税となるため、所得控除が受けられている期間は手数料負けすることはないことがわかります。

iDeCoのデメリット

基礎編で挙げたデメリット中から要となる部分を深掘りします。

1.特別法人税

凍結されている特別法人税については懸念が残ります。

しかし、少なくとも現時点では大きな話題にはなっていません。

1999年4月から2、3年ごとにひっそりと課税の凍結が延長され続けています。

特別法人税の対象はiDeCoだけではなく、厚生年金基金の代行部分の一部や確定給付企業年金、確定拠出年金(企業・個人)も含まれており、企業年金の対象者の多くに影響を及ぼします。

個人的には、特別法人税の復活の可能性は低く、仮に復活しても退職所得控除枠内に収められれば特定口座より損をする可能性も低いだろうと判断しています。

2.非課税世帯

意図せぬ退職や早期リタイアなど、60歳を迎える前に納税者ではなくなった場合、その年から所得控除の恩恵は受けられなくなってしまいます。

しかし、そこで掛金の拠出をやめてしまうと退職所得控除を計算する際の掛金拠出年数から除外されることになり、退職所得控除枠が小さくなってしまいます。

なお、それでも枠内に収まるであろう場合は問題ありません。

さらに、掛金の拠出をやめると加入者から運用指図者になりますが、毎月66円の運用指図者口座管理手数料は固定でかかり続けます。

3.デメリットまとめ

以上のことを総括して、新NISAの1,800万円の枠を使い切れる人であれば特定口座よりもiDeCoを優先しても損をする可能性は低いだろうと判断しました。

出口戦略

出口戦略が退職所得控除枠を有利に利用できるかどうかが関わる最も重要な部分になります。

将来のことは予測できないため難しいところですが、加入前に考えておくことが重要になります。

この事項を懸念して加入しないという人もいるくらいです。

1.19年ルール

企業年金は、「前年以前19年内に他の退職金を受け取る場合、退職所得控除を計算する勤続年数から重複期間が除外される」と所得税法施行令で定められています。

19年ルールを避ける場合の企業年金の受け取り上限年齢は55歳となります。

具体的には、支給の繰り下げは75歳の誕生日の2日前が限度であることから、55歳になる年の1月1日~12月31日の間に受け取ることで退職所得控除の重複を避けることができ、それぞれ別枠で使用できます。

言い換えると、56歳になる年以降に企業年金を受け取ってしまうと、19年ルールを避ける方法はないことを意味します。

つまり、それ以降である60歳や65歳などに企業年金を受け取る予定の人は、下記の4年ルールにより避けるしかありません。

2.4年ルール

企業型確定拠出年金/DC・個人型確定拠出年金/iDeCoは、「前年以前4年内に他の退職金を受け取る場合、退職所得控除を計算する加入期間から重複期間が除外される」と所得税法施行令で定められています。

iDeCoの受け取りは最短でも60歳であることから、4年ルールを避ける場合は企業年金を65歳以降に受け取る必要があります。

具体的には、iDeCoを60歳になる年の1月1日~12月31日の間で受け取った場合、企業年金を65歳になる年の1月1日~12月31日の間以降に受け取ることで退職所得控除の重複を避けることができ、それぞれ別枠で使用できます。

言い換えると、企業年金の受け取りを65歳以降まで延ばせない場合は、4年ルールを避ける方法はないことを意味します。

3.結論

3-1.退職金がある人

19年ルールもしくは4年ルールの制限が発動してしまうと、金額次第ですが全額非課税で受け取ることは難しくなってしまう可能性が高まってしまいます。

従って、自身で詳細な計算をできる場合を除いて、「iDeCoを受け取ってから5年以上空けて企業年金を受け取る」、もしくは、「企業年金を受け取ってから20年以上空けてiDeCoを受け取る」という2パターンを前提として検討します。

回避できそうにない場合や、転職や出向、転籍があって複雑でわからない場合は加入を見送るべきです。

具体的には、iDeCoの受取可能期間は60歳〜75歳の誕生日前であるため、「iDeCoを60歳で受け取り、5年以上空けて、65歳以降に企業年金を受け取る」「企業年金を40歳〜55歳で受け取り、20年以上空けて、60歳〜75歳で受け取る」のどちらかによって期間の重複を回避できます。

つまり、早期リタイアをする場合を除き、一般的には、60歳時にiDeCoを受け取り、65歳時に企業年金を受け取るのが王道だろうと思います。

なお、掛金拠出期間または勤続期間に対して退職金が少なく、両者を合算しても退職所得控除枠内に収まる場合は、悩む必要なく全額非課税で受け取れます。

金融機関によっては、年金と一時金の併用を利用でき、工夫することで重複期間を回避できる場合もあります。

しかし、複雑であるため、もしもの場合の最終手段程度として捉えておくのがよいと思います。

3-2.退職金がない人

退職金がなく、過去に受け取ったこともない人は特別法人税が復活しない限り、特定口座よりも損することはないため、気にする必要はありません。

4.計算例

4-1.計算例1

  1. A社に10年勤務
  2. B社に7年1ヶ月勤務

それぞれの退職所得控除の計算は下記となります。

  1. A社:40万円×10=400万円
  2. B社:40万円×8(1年未満切り上げ)=320万円

同系列会社でなく、A社の退職一時金受け取りから5年以上空いているため、退職所得控除枠はそれぞれ別枠となります。

4-2.計算例2

  1. A社に23歳から55歳まで勤続32年1ヶ月勤務、企業型確定拠出年金に32年1ヶ月拠出で退職
  2. B社へ転職後、iDeCoに60歳までの5年間拠出
  3. B社に勤続7年3ヶ月勤務、62歳で退職

それぞれの退職所得控除の計算は下記となります。

  1. 40×20+70×13=1,710万円
    勤続年数は、利用者に有利となる小数点切り上げで計算されます。
  2. 40×20+70×18=2,060万円
    過去19年以内に受けた退職金があるため、19年ルールが発動し、重複期間の計算が必要になってしまいます。
    仮に、1での退職金が1,590万円だった場合、重複期間は(1,590-800)÷70+20=31.29→31年(1年未満の端数切り捨て)となるため、退職所得控除枠は40×(38-31)=280万円となります。
    また、2での退職金が360万円だった場合の課税額は下記となります。
    所得税:(360-280)×1/2×5%=2万円
    住民税:(360-280)×1/2×10%=4万円
     ※厳密には、市区町村民税:6%と都道府県民税:4%とで分けて計算してそれぞれ100円未満の端数切り捨てで計算します。
      政令指定都市の場合は、道府県民税2%、市町村民税8%となります。
  3. 40×8=320万円
    過去4年以内に受けた退職金があるため、4年ルールが発動し、重複期間の計算が必要になってしまいます。
    これが仮に勤続10年2ヶ月の65歳でB社を退職の場合は、退職所得控除は40×11=440万円、過去4年以内に退職金を受け取っていないため、4年ルールは発動せず、別枠扱いとなり440万円が丸々退職所得控除枠となります

4-3.計算例3

  1. 23歳で入社、30年間勤務して55歳で退職して退職一時金2,000万円を受け取り
  2. その中で35歳で確定拠出年金に加入、60歳で一時金として1,000万円を受け取り

それぞれの退職所得控除の計算は下記となります。

このケースでは、4年ルールは発動せず、退職所得控除枠はそれぞれ独立して使用できることになります。

  1. 55歳時の退職一時金の退職所得控除は、40×20+70×12=1,640万円であるため、課税所得は、(2,000-1,640)÷2=180万円となります。
  2. 60歳時の退職一時金の退職所得控除は、40×20+70×5=1,150万円であるため、課税所得は、(1,000-1,150)=-150≦0となり、全額非課税で受け取れます。

まとめ

加入を検討する場合は、まずメリットではなくデメリットである退職所得控除をうまく利用できるかどうかと特別法人税について考え、引っかかる場合は加入すべきではないと思います。

基礎編に示した加入を検討してもよい条件に1つでも当てはまり、興味が湧いたら検討してみてください。

次回は、私自身が加入を決めた詳細部分に触れて最終回にしたいと思います。

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