基礎編では、総合課税の課税所得金額が695万円以下であれば、税制面では配当所得を申告して配当控除を利用した方が得であることを示しました。
今回はその先である配当所得を特定口座(源泉徴収あり、以下省略)から外に出す場合の影響をまとめてみます。
配当所得と譲渡所得を特定口座から外に出して確定申告をするのは、確実に得になると確信できる場合に限るべきです。
税金に関わることは非常に複雑であることから、自身に当てはまる項目がある場合は、配当控除や損益通算の利用は諦め、特定口座から出さずに申告分離課税の申告不要制度を利用して源泉徴収のまま処理すべきです。
メリット・デメリット
配当所得や譲渡所得を特定口座から出して確定申告をするメリットとデメリットは下記になります。
メリット
1.配当控除や外国税額控除、損益通算、繰越控除を利用することができるようになる
特定口座から出さずに申告不要制度を利用すると20.315%の税金が自動的に源泉徴収されます。
しかし、確定申告をすることにより、配当控除や外国税額控除を利用して配当所得に係る税率を下げる、または譲渡損失と損益通算をして還付を受ける、または繰越控除を利用することができるようになり、税金を減らすことができる場合があります。
2.ふるさと納税の上限額が上がる
ふるさと納税の上限額は、住民税を計算する際に用いる合計所得金額が関係することから、配当所得が加算されるとふるさと納税の上限額も上がることになります。
※特定口座から出さずに確定申告をしないと総所得金額等には含まれないことから、ふるさと納税の上限額は上がりません。
※確定申告では、同じ証券口座でも譲渡所得と配当所得それぞれを申告するかしないかの選択が可能ですが、譲渡所得も申告することでふるさと納税の上限額が上がります。
譲渡所得は申告分離課税であるため、総合課税の総所得金額等には加算されず、配当所得に係る税率には影響しません。
※ふるさと納税については別途記事にしたいと思います。
デメリット
1.逆に損をしてしまう場合もある
所得税と住民税の計算や各種控除、行政サービスなどの算定基準に使用される合計所得金額または総所得金額等に加算されることになります。
この合計所得金額または総所得金額等が問題であり、国民健康保険料や配偶者控除、扶養控除、住民税非課税判定、児童手当など、多くの算定基準に影響を及ぼすことになります。
つまり、合計所得金額が一定額以上になると、国民健康保険料が増額になってしまったり、扶養控除や児童手当の対象外になってしまう場合があり、逆に損をしてしまう場合もあります。
※譲渡所得または配当所得は、特定口座から出さずに源泉徴収のままにしておけば合計所得金額には含まれません。
つまり、上記の数多くの項目への影響は一切ありません。
※確定申告関連を調べていると、「合計所得金額」や「総所得金額等」、「課税総所得金額」など、似たような単語が出てきますが、計算の大元は合計所得金額であり、そこから損益通算や各種控除を差し引いて総所得金額等や課税総所得金額が算出されます。
※合計所得金額については別途記事にしたいと思います。
各項目の算定基準
合計所得金額や総所得金額等などが増加した場合に影響する可能性のある項目は下記になります。
※項目によって、所得税上の合計所得金額が用いられる場合と、住民税上の合計所得金額が用いられる場合と、両方の場合があります。
1.合計所得金額が算定基準に用いられる項目
2.総所得金額等が算定基準に用いられる項目
3.検討手順
まず、上記の中から、自身に当てはまるものがあるかどうかを確認します。
当てはまるものがない場合は、配当所得や譲渡所得を特定口座から外に出して総合課税や申告分離課税で確定申告してもデメリットはありません。
当てはまるものがある場合は、配当所得を総合課税で申告する場合としない場合とでどちらが得になるかを試算して比較しなければなりません。
そのことから、自身に関わる項目がある場合は、税金の還付やふるさと納税の上限額を上げることは諦めて申告不要制度を利用すべきだと思います。
以下に例を1つ示します。
4.社会保険料の決まり方
自営業者や学生、主婦、主夫、75歳以上の後期高齢者など
国民健康保険料や窓口の医療費負担は合計所得金額や総所得金額等をベースに市区町村ごとに定められているため、影響を受けます。
会社員や会社役員
給与や賞与、役員報酬をベースとした標準報酬月額でのみ決まることから、合計所得金額や総所得金額等が上がったとしても影響を受けません。
実際の計算例
私の2023年の実際の数字を使って計算してみます。
1.配当所得を特定口座から出さずに申告不要制度を利用して源泉徴収のままにする場合
条件は下記になります。
※計算上の支払金額は、4,000の整数倍。
※課税所得は、1,000円未満の端数切り捨て。
2.配当所得を特定口座から出して総合課税で確定申告をする場合
条件は下記になります。
1の結果に配当所得が加算されます。
課税所得が695万円以下であることが確認できました。
参考までに、配当所得に対する最終税率を確認します。
出典:国税庁HP
上記表より、課税所得1,917,000円の所得税率は5%となります。
総合課税の住民税率は一律で10%です。
配当所得を総合課税で確定申告した場合、この税率から配当控除の率を差し引くことになります。
課税所得が1,000万円以下であるため、配当控除は所得税率:-10%、住民税率:-2.8%が適用されます。
配当控除は税額控除であるため、この段階で税率から直接差し引かれることになります。
従って、配当所得に係る実効税率は、所得税率:5%-10%x2.1%=0%、住民税率:10%-2.8%=7.2%、合計:7.2%となります。
特定口座から出さずに申告分離課税の申告不要制度を利用して源泉徴収のままとした場合の税率20.315%を下回ります。
3.結論
私の場合、会社員であるため社会保険料への影響がないこと、合計所得金額が上がって影響のある控除などがないこと、課税所得が695万円以下であること、という条件にすべて当てはまることから、デメリットで挙げた項目の影響は受けないと判断し、配当所得と譲渡所得を特定口座から外に出して総合課税として確定申告をすることにしました。
それにより、配当控除による税率の低下とふるさと納税の上限額が上がるメリットを受けられます。
まとめ
2024年以降の確定申告における配当所得の扱い方についてまとめてみました。
得になる条件を満たす人は確定申告を検討してみる価値はあります。
しかし、確実に得をするという確信が持てない人は特定口座から出さずに処理すべきです。
※詳しくは税理士等にご相談願います。
※住民税を総合課税で申告する場合、確定申告書において、住民税の徴収方法を「特別徴収」ではなく「自分で納付」を選択すれば基本的には会社にはばれないとされています。
しかし、役所のミスにより会社に通知がいってばれてしまったケースもあるようで、100%ではありません。
※2024/3/17に一部追記しました
※2024/4/29に所得控除の額の合計額に小規模企業共済等掛金控除と寄附金控除が含まれていなかったため修正しました
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